「ルベドーご飯だぞー」
と、呼ぶ声が聞こえたのでルベドは駆けて行った。
飼い主のアルベドはすでに食卓についてはいたが、そのテーブルの上には何もなかった。
「ご飯じゃないのかよ」
と聞くと、
「ご飯だろ」
と、アルベドは言った。
「だって、何もないだろうが」
「何もないさ」
と、アルベドはちょっと憮然として言った。
「早くご飯作ってくれよ」
「はぁ?! お前が作るんだろ?!」
「何言ってんだルベド、俺はお前の飼い主なんだぞ? 飼い主のために少し尽くすべきだろう、飼い猫としては」
「飼い主に飯を作ってやる猫がどこにいるんだよ! つうか猫に飯を与えられる飼い主でいいのかお前は!」
「いいんじゃねえの?」
かなり適当だ。
「冷蔵庫のもの使っていいからさ、ご飯ご飯ー。腹減って死なないのに死にそうだぜ」
「あーもーわーったよ・・仕方ねえ、ちょっと待ってろ」
ルベドは冷蔵庫を開けてちょっと我が目を疑った。
「おいアルベド! なんだよこれ!」
「なんだ?」
「冷蔵庫! 煮干ししかねえだろうが!」
「煮干し、ダメなのか?」
「いや、ダメっつうか、まずこの煮干し、第一、ペット用って書いてあるじゃねえか!」
「安かったんだー、ペット用品3割引で」
と、輝くばかりの笑顔でアルベドは嬉しそうに言った。
「いや、安いのはいいけど、おまえ、ペット用の煮干し食うのかよ・・」
「ん? その煮干しはルベドのために買ってきたんだぜ?」
「いや、そうかもしれないけど、冷蔵庫にこれしかないぞ?」
それを聞いて流石にアルベドもしまった、という顔をした。
「煮干しが安かったからたくさん買っちまって、あと何も買ってこなかった」
「アホだなお前!」
流石のアルベドも言い返す言葉がなく、その腹だけが鳴った。
「大体なあ、この煮干し、犬用だぞ」
「なに? 犬用の煮干しなんかあるのか! 古来より煮干しは猫の食べ物だろうが!」
「だって犬用って書いてあるんだから仕方ないだろ」
「まぁでも、犬でも猫でも大した違いはないさ」
「バッカヤロー! 猫を犬と一緒にすんな! 全然違う生き物だ!」
「まあまあ、そう興奮するなよ、ルベド。とにかく煮干しを食うしかない、出してくれ」
それは確かにその通りだったので、人間としてのプライドを捨てて犬用煮干しを食うことにしたアルベドを見習って、仕方なく猫としてのプライドを捨て、ルベドは煮干しを皿に盛った。なんだかとても寂しい感じだった。
「アルベド・・」
「なんだ、ルベド?」
「前から言ってたけど、俺、お前と同じ食べ物でいいから、飯」
「ご飯も俺と一緒のものじゃなきゃイヤだなんてルベド、俺たちラブラブだな!」
「ちげえよ! 俺はペットフードじゃなくて人間の飯がいいって言ってんだ!」
「なに・・生意気だな、ルベド!」
「だってまずいんだよ、ペットフードは!」
「ペットがおいしく食べるからペットフードなんじゃないのか?! チクショウ、ペットの缶詰屋に乗り込んでくるか!」
「やめろよ、腹減って死にそうなんだろ。とにかくだな、普通の食べ物でいいから、つうか普通の食べ物がいい」
「おまえって猫のくせにわがままだなあー」
「お前ほどじゃねえよ、人間のくせに生意気」
「じゃ、生意気コンビだ!」
「嬉しそうに言うなよ」
「だって嬉しいんだから仕方ないだろう」
「変なヤツだな、ほんとに」
アルベドは笑いながら、犬用煮干しを口に入れた。
「んー?! 結構うまいぞこれ!」
「ほんとかよ・・」
「ああ! 普通の煮干しだ普通の」
この飼い主は人間やめても生きていけるな・・・と、ルベドは思った。
まあ今日は俺も、犬用の煮干しに甘んじるほかない。
「明日はちゃんと、人間の食い物買ってこいよ」
「はーい」